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日立システムズ SHIELD Security Research Center

2012年6月29日初版公開

日英のサイバーセキュリティ協力が、ここ2カ月の間に急速に進んでいる。アジア太平洋地域の国防・安全保障担当閣僚や専門家らが意見交換を行う 「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」が開催されたシンガポールで、2012年6月3日、日英は防衛担当閣僚級会談を行い、 サイバー空間の安全を含む多様な分野における防衛協力を深めるための覚書を交わした。本覚書では、日英が「テロ、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間・宇宙の安全を含む、 現在及び生起しつつある安全保障上の課題が、両当事者及び国際社会の利益に影響を及ぼすことを認識」した上で、 「機会に応じたサイバー空間・宇宙の安全に係る課題に関する多国間会合の場を含む協力」をすることがうたわれている。 また、同覚書の中では、秘密情報を守るために情報保護協定の交渉開始も盛り込まれている。 (脚注:ⅰ)

2週間後の2012年6月19~20日には、日英サイバー協議が東京で開催され、日本側からは外務省、内閣官房等が、英国からは内閣府等が出席した。 国際的な規範作り、安全保障面での課題、サイバー犯罪への取り組み、 情報セキュリティ・システム防護、経済的・社会的側面等における両国の取り組みについての紹介や協力の可能性について話し合われたという。 (脚注:ⅱ)

本覚書は、2012年4月10日に野田首相とキャメロン首相との首脳会談後に発表された共同宣言に基づいている。 共同宣言の中で、両国の防衛担当大臣による防衛協力覚書署名と情報保護協定の交渉開始が決定されている。 また、「我々は、サイバー空間の利用の増大が世界の繁栄にもたらす莫大な利益、並びに情報の自由な流れ及び世界の安全保障を守ることの重要性を認識している。 我々は、国家、民間セクター及び市民社会が、これらの利益を守るために協働する必要性を強調する。我々は、サイバー空間に関係する問題についての二国間の協議を強化し、 2011年11月のサイバー空間に関するロンドン会議の結論を前進させるために、国際的に協力する」と述べられている。 (脚注:ⅲ)

また、2012年5月2日には、川端達夫総務大臣とジェレミー・ハント文化・オリンピック・メディア・スポーツ大臣がロンドンで会談し、4月の首脳共同声明を受け、 インターネット政策課題に関する共同声明を発表した。その中で、「インターネット及びサイバー政策に関する今後の国際的な会合において、 国民及び企業の双方がインターネットを利用する際に、現在の情報の自由な流通を享受し続けることができるよう国際的なコンセンサスを実現するために相互に協力する」方針が 盛り込まれている。しかし、インターネットがもたらす経済成長や情報の自由な流通と安全保障面での問題との齟齬については、言及されていない。 両政府は、今後、これらの問題のバランスのとり方についても協議する必要があるだろう。 (脚注:ⅳ)

首脳会談の後から2か月足らずの間に防衛協力のための覚書の署名が可能となり、サイバーセキュリティ協力と情報保護も盛り込まれたのには、 両国が、民主主義、立憲君主国、市場経済国などの価値観を共有していることが役立ったものと思われる。また、その他にも、2つの理由が考えられる。 一つには、サイバーセキュリティと情報保護が、今後の日英による防衛装備品の共同開発・生産において必要不可欠であること、二つ目には、2011年11月のサイバー空間に関するロンドン会議によって、 日本が英国のイニシアチブを評価し、両国の協力の必要性を認識したこと、が挙げられる。

第一に、日英による防衛装備品の共同開発・生産が2012年4月の首脳会談で合意されたものの、サイバーセキュリティや情報保護を含む安全保障協力が強化されない限り、 安全な共同開発・生産が難しいとの判断があったものと思われる。2011年の武器輸出3原則の緩和後 (脚注:ⅴ) 、日本が米国以外の国と防衛装備品の共同開発・生産を行うことで合意したのは、英国が初めてである。 キャメロン首相は、日本の防衛産業市場への英国企業の参入が自国の輸出拡大と雇用創出につながることを十分に認識した上で首脳会談に臨んでおり、 BAEシステムズやAgustaWestland等の大手英国防衛企業の代表を同行させていた。 (脚注:ⅵ)

しかし、BAEシステムズが開発に加わる米国主体の最新鋭ステルス戦闘機F-35のデータを盗むため、中国のハッカーが同社のコンピュータに18ヶ月間にわたって侵入し、 そのため開発が予定よりも遅れている、と2012年3月に報じられた。F-35は、航空自衛隊の次期主力戦闘機であるため、サイバーセキュリティの強化と情報保護は日本にとっても他人ごとではない。 (脚注:ⅶ)

第二に、サイバー空間に関するロンドン会議の英国での開催というイニシアチブを日本が評価し、サイバーセキュリティ協力の必要性を両国が認識したことが挙げられる。 2011年10月31日に玄葉外相とハモンド英国防相とが東京で会談した際に、ヘーグ英国外相主催の同会議を評価し、サイバー分野を含む日英の安全保障協力を促進したいとの発言が玄葉外相から出ている。 (脚注:ⅷ)

そのため、ロンドン会議と日英首脳会談を機に、サイバーセキュリティと情報保護が、今後の防衛装備品の共同開発・生産において必要不可欠であること、 またロンドン会議によって、日英協調の必要性が認識されたことを受け、両国のサイバーセキュリティ協力が急速に進んできたと言える。 今後、サイバーセキュリティ協力と情報保護協定の交渉が進んでいく中、サイバーセキュリティと規制、情報の自由とのバランスのとり方が課題になるであろう。

参考情報:

  1. 2012年6月3日付防衛省ホームページ「英国国防省及び日本国防衛省の間の防衛協力に関する覚書」
    http://www.mod.go.jp/j/press/youjin/2012/06/03_memo.pdf
  2. 2012年6月20日付外務省ホームページ「日英サイバー協議の開催について」
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uk/juk_cyber1.html
  3. 2012年4月10日付外務省ホームページ「日英両国首相による共同声明(仮訳)~世界の繁栄と安全保障を先導する戦略的パートナーシップ」
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/uk_1204/kyodo_seimei.html
  4. 2012年5月2日付総務省ホームページ「インターネット政策課題に関する共同声明」
    http://www.soumu.go.jp/main_content/000157956.pdf
  5. 従来、武器輸出3原則によって、武器の輸出は原則として禁じられていたが、 (1)平和貢献・国際協力に伴う案件、(2)日本と安全保障面での協力関係がある国との国際共同開発・生産に関する案件について、防衛装備品などの武器の輸出が認められることになった。
  6. 2012年4月19日付朝雲ニュース「日英両国 装備品共同開発で合意 3原則緩和後、初めて」
    http://www.asagumo-news.com/news/201204/120419/12041905.html
    Nicholas Watt, “David Cameron seeks slice of Japanese defence contracts on Tokyo trip,” The Guardian, April 10, 2012,
    http://www.guardian.co.uk/politics/2012/apr/10/david-cameron-japan-defence-contracts
  7. The Sunday Times, “Security experts admit China stole secret fighter jet plans,” March 12, 2012,
    http://www.theaustralian.com.au/news/world/security-experts-admit-china-stole-secret-fighter-jet-plans/story-fnb64oi6-1226296400154
  8. 2011年10月31日付外務省ホームページ「プレスリリース:玄葉外務大臣とハモンド英国防相との会談」
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/10/1031_04.html
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